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シャフトの長さによるダーツの飛びかたの違い

シャフトの長さによる飛び方の違いが動画やWebページやポスターなどに書いてありますが、イメージ的なものが多い印象でしたので、ダーツの飛び方の計算を行なってみて、実際にどう飛ぶのか観察してみました。

ダーツの飛び方の計算を行った結果では、シャフトの長さが変わって変わるのはダーツの重心の軌道ではなく、ダーツの縦方向の振動の速さでした。物は放物線を描いて飛びますので、ダーツの重心は例外なく放物線を描きます。上手い人がでている大会に観戦に行って、個性的なプレイヤーも含めて多くの人のダーツの飛びかたをフロアーでよく見てみましたが、横からみるとダーツそのものは同じような放物線を描いていました。しかし、上下振動のさせかたは人それぞれでした。後ろからみるとダーツの先端が上がる投げ方では直線的に見え、下がる投げ方では、当たる寸前に急激に落下するように見えました。上下振動は投げ方によってもダーツによっても変えることができます。人が変えられるのは投げる時の回転速度と向きで、投げたあとは触ることはできないのでダーツの特性すなわち、ダーツ自体の回転のしやすさと、フライトが受ける力によってどう振動するかが決まります。シャフトは細いので空気から受ける力をフライトに比べて無視できると考えれば回転のしやすさのみに影響すると考えられます。ダーツ自体が軽かったり短かったりして回転しやすければ速く動き、重かったり長かったりして回転しにくければ遅く動きます。

ダーツの振動のしやすさに影響があると言っても市販のシャフト長さの範囲ではかなり微妙な変化でした。ダーツの軌跡の上に飛型プロットしても重なってほとんど違いが分かりません。しかし、微妙な差でもダーツが刺さる位置には差がでます。上の図は横軸にシャフトの長さをとって、縦軸にダーツがボードに刺さった時の高さを示しています。1600mmの高さ1940mm先のボードに向かって上に20°の仰角で、迎え角-10°(すなわちピッチ角10°)、初期回転速度1回転/秒(裏抜き)で投射した場合について計算しています。バレルは40mm、重さは20g、フライトはスタンダードです。バレルの長さ(mm)を20で割った値を重さ(g)としています。計算ではダーツが裏抜きなので上を向き、次に振動で下を向きます。このときに、シャフトが短い場合には、振動が速くなっているので。もう一度上を向きます。そのために、ボードに当たる高さが高くなります。しかし、13mmより短くなると、トルクがかからなくなるので角加速度が遅くなり振動が遅くなるので、当たる高さが低くなります。したがって13mm付近が最も当たる高さが高くなるピークになります。シャフトが長くなると振動がゆっくりとなり、トルクが大きくなるために振幅が大きくなるので当たる高さが低くなってきます。しかし90mm付近から、ここでも振動の揺り戻しがあって先端が上を向いていくので、90mmを超えるとまたボードに当たる高さが高くなっていきます。

シャフトを20mmから30mmにしてもボードに当たる位置が5mmも違わないし、40mmまで長くしても10mmも違わないとは本当だろうかと思って、ひでわんラボで実際に投げて観察してみました。ひでわんラボの様子はこちらの記事に以前に書きました。

シャフトの長さは思いっきり変えてみたかったところですが、手持ちの一番長いのが37.5mm、短いのが23mmだったので、その二つを使いました。バレルは直径が変わらないので計算誤差が少ないと思われるので一般的なストレートバレルを使いました。ハローズのエリック・ブリストウ22gです。フライトはスタンダードです。ポイントの長さは買ってきた時のままで実測26mmです。

この条件で計算すると以下のような結果になりました。上段がシャフトが長い場合(37.5mm)で、下段がシャフトが短い場合(23mm)です。

左のグラフがダーツが飛んでいきボードに当たる様子です。線がダーツの傾きを示しています。この図では、裏抜きなので先端が上を向いたあとに下を向き、ボードに当たっています。

真ん中の図は、ボードに当たったところのダーツの傾きを示しています。黒い線がダーツボードを示していて、それにダーツが刺さっている絵です。この図では先端を下に刺さっていることが分かります。

右のグラフは、飛距離に対して、ピッチ角の大きさを示しています。黒い四角の部分でダーツがボードに当たっています。左のグラフに示したように、最初は上を向いているのでピッチ角は正ですが、ある距離をすぎると下を向き、ボードに当たることになります。ここで、着目するのはダーツが当たった高さと、ダーツがどのような状態で当たったかです。両方とも下に振れたあと少しだけピッチ角が上がっていることがわかります。特に下のシャフトが短い方の結果は上のシャフトが長い場合に比べて上がっています。これは先端が上がり始めていることを示しています。短いシャフトのほうが上がるのが早いため、長いシャフトよりも高い位置に当たることになります。

とても微妙な差ですが、実際にどうなっているか動画をとって見ました。最初の二本がシャフトが長い場合で後の二本が短い場合です。

芯抜きに近くなるとシャフトのばかりかセッティングの影響がほとんどなくなってくるので、意識的に裏抜きで投げています(がこの程度です)。投げてみた感じでは両方とも同じに見えましたが、動画を見てみるとシャフトが長い場合はダーツが下を向いたままボードに突っ込んでいますが、短い場合はボードに当たる前にちょっとだけフワッと先端が上がる挙動が見えました。(スマホだとちょっと小さくて分かりにくいかもしれません。)ダーツが平行になる位置は、シャフトが短い方が投げ手側に近く少し振動が速いことがわかります。

すなわち見た目には分からないけどもシャフトを変えると振動の速度が変わり当たる位置が微妙に変化することがあるということです。特にダーツのを振動させて投げる人は差がでると思います。空気抵抗が変わるフライトや、ダーツの振動のしやすさに大きく影響を与えるバレルよりも差が小さいので微調整することができると思います。市販のシャフトの長さの範囲では長くするほど振動がゆっくりになりますが、実際に当たる場所がどう変わるかは、振動の初期値や周期によりますので、そのプレイヤーの投げ方やダーツによって変わります。一般化はできないと思います。差が分かるのは数ミリの差を感じることができる一部のプレイヤーで、そうでない人はあまり影響がないのであまり悩まず、バレルとフライトとのバランスから美しく見える長さのものを選んで問題ないと思います。

カテゴリー: データ解析

2件のコメント

  1. Quo Quo

    はじめまして。twitterから流れ流れて来ました。
    大変参考になりました。

    私はソフトのプレイヤーなのですが、以前から着地時の姿勢、ピッチ方向の回転について気になっていた事の答えに近づくことができました。
    動画で短いシャフトでの着地の際、少しだけ矢が上向く回転に移行しつつ刺さりますが、あの少しの回転が重要だと考えています。
    ダーツは何かと重心で考えがちですが、刺さるのはポイントの先端です。先端の軌道について考えた時、着地前後(実際にはボードに刺さるので、後という表現は正確ではないかもしれませんが)で先端がなるべく水平な軌道を描く様に投げられれば、高さに関するグルーピングが良いと思うのです。
    ダーツの全体、重心で考えれば、放物線を描いて、上から下に着地するわけですが、ダーツ自身のピッチング方向の回転でそれを相殺し、一時的に先端の高さが安定するタイミング。このタイミングでボードに刺さるように投げれば、多少のスローミス、差があっても、高さに関してはカバーできる。
    この様に考えています。
    ただ、その様に投げる投げ方、セッティングの最適解はよくつかめていなかったので、今回のシミュレーション、実験は大いに参考になりました。

    軌道計算ツールがあるんですね!活用させていただきます。すばらしい!

    • Hidde-Wan Hidde-Wan

      どうもありがとうございます。世界を長らく制したフィル・テイラーさんはそれに近い考えだったのかなと思い興味深いです。成功されることを願っています。

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