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マイケル・スミスが素晴らしいプレイヤーであることがわかる309残からの3本

2018年11月15日、グランドスラム・オブ・ダーツのノックアウトステージのセカンドラウンド、マイケル・スミスは、マイケル・ヴァン・ガーウェン と対戦しました。その9レグ目、ガーウェン 先攻でガーウェン は180を二回出して141残とし、三スロー目でナインダーツトライを失敗して52残とし、一方、スミス309残でした。ここで上がり目(1スローで上がれる残数)を出してせめてプレッシャーをかけたいところです。そこで、3スロー目、スミスはT19、DB(インブル、ダブルブル)、T19として164、145残と上がり目を出して猛追しました。このレグはガーウェン が勝ちましたが、ガーウェン のナインダーツトライよりも、スミスの309をT19-DB-T19の方が気になりました。T19に入れて、DBからまた元に戻ってT19。スミスらしく、淀むことなく投げています。

19から入ってDBに行ってまた19に戻る、これはよく考えられた手順でした。これだけでマイケル・スミスは素晴らしい選手だということが理解することができますので解説したいと思います。樋口プロ@dancingduck180勇さん@fqnnk からアイデアいただきました。ありがとうございました。

一本目T19

まず、トリプルよりもブル(アウター含)に入れるほうが容易という前提で、
180を超えるような大きい数字を削る場合、とりあえず難しい順に並べると以下のようになると思われます。
①トリプル3本
②トリプル2本とアウターも含めたブル
③トリプル2本とシングル1本

ブルはアウターまで含めると、トリプルの幅や長さよりも大きいからです。意外にもトリプルはブルの中に入る大きさです。そしてもちろんブルはシングルの中に入る大きさです。そのため難しさは上の順番になります。トリプルの最大点はT20の60点、ブルはインブルに入れても50点ですし、ブルはアウターに外れても25点なのでシングルの最大点の20よりも大きいので、難しさの順番は高得点が狙える順番にもなっています。
トリプル3本と、トリプル2本とインブルについては、インブルの直径はトリプルの幅よりも大きく円形ですが、インブルの面積はトリプルよりも小さいので、トリプル2本とインブルの方が難しいと思います。インブル(最大で170点)はトリプル3本(最大で180点)よりも点数が低いので、外しても25点だからとインブルを削りのために投げる人は今のところいません。そのため「削りとしての」トリプル2本とインブルの組み合わせは除外して考えます。(もちろん「上がり」としてインブルはダブルアウトで上がれるのでトリプルにはない立派な役目があります。)

170(T20 T20 DB)が3本で上がれる最も大きな数字で、削りではこの数字以下にすることが目標になります。ちょっと考えてみるとわかりますが170以下になっても169,168,166,165,163,162,159では3本で上がることができないため、これらの数字をうまく避けるようにアレンジ(調整)していくのが腕の見せ所です。たとえば167はT20 T19 DBのように上がれますが、168,169はどう考えても上がれません。
上がり目(1スローで上がれる残数)の最大値は170なので、とりあえずそれ以下にすることだけを考えると

  • 350残以下では①(トリプル3本)を使えば到達します。(350からT20,T20,T20で170。しかし349,348などから上がり目を作るのは無理です。)340以下でT20,T20,DBで170にできますけどPDCプレイヤーでも220残1本持ちですらDB狙って170にしようとするケースは10%以下ですのでトリプル2本にインブルは除外して考えます。
  • 315、312残以下になれば②(トリプル2本とブル)でも到達できます。(315からT20,T20,S25で170、312からT20,T19,S25で170。しかし314,313などからはこの②の方法で上がり目はつくれないので、①の方法が必要。)
  • 310残以下になれば③(トリプル2本とシングル)でも到達できます。(310からT20,T20,S20で170。しかし319,318などからこの②の方法で上がり目はつくれないので、①か②の方法が必要。)

今回の309残を考えてみると、ブルを使わなくても③のトリプル2本とシングルで170に持っていける数字になってはいます。T20 T20 S19で170にできます。しかし一本目T20を狙ってS20に外れたとき、289になります。289点から残りの2本で170以下にするには120か119点を取らなくてはなりりません。トリプル二本の最大値120(T20-T20)点を取って169点にしても上がり目にはなりません。またトリプル二本で119点は取ることができません。したがって、一本目にT20を狙ってS20に外すと上がり目を出すことが絶望になります。
しかし、最初にT19を狙えばT19T19SB(アウターブル、シングルブル)で170にすることができるし、S19に外れてもT20T20で170にすることができます。そのため最初はT19を狙うことになります。

2本目DB

今回のスミスの場合、309からT19に入って252残になりました。実際には252残からの2本持ちでブルを狙う選手はほとんどいませんが、スミスはDBに入れました。そこで、なぜDBかです。(私の統計ではPDCプレイヤーが今年252残2本持ちになった回数は、117回あり、ブルが狙われたのは8回で全体の7%弱しかありませんでした。他はT20が狙われたのは68回、T19が狙われたのが40回、S17が1回ありますがT17狙いかブルが外れたのかどうかが不明。)

252残からT20に入れば192残(252-60)、T19に入れば195残(252-57)で、まだシングルの最大値20に入れても170以下にはなりません。しかし、T20かT19に一本入れば、もう一本でアウターでもいいからブルに入れば、252からT20-SBで167残(252-60-25), T19-SBで170残(252-57-25)となります。インブルに入ればT20-DBで142残、T19-DBで145残と余裕で170以下にできます。そのためトリプル二本か、トリプルとともにインでもアウトでもブルを絡めることが必要になります。トリプル2本よりも、トリプル・ブル(アウターも含めた)の方が難易度はやさしくなりますので、トリプル2本よりもトリプル・ブルの組み合わせの方が賢明です。

252残から二本目はT20,T19,ブルの3つのうちどれかを狙い、かつ2本目か3本目かどちらかはブルを狙うことになります。スミスともなればトリプルを外したらシングルの数字になると考えられます。しかし、スミスでもブルについては、もしアウターも外れるとどんな数字になるか予測不可能です。

もし、252残から最初にT19やT20に当てて、195,192残となったらブルを打つしかないですが、195、192からのブルをアウターブルの外に外したら、どんな数字になるかわかりません。170以上にも好ましい数字と好ましくない数字があります。例えば175残と176残を比べれば、T20-T20を出したあとの処理を考えると、55となる175残よりも56となる176残のほうが数字は高いけれどもありがたいです。もしアウターの外にでてしまうとそういう調整が全くできないので、次のスローは好ましくない数字から始めなくてはならない可能性がでてきます。スミスだったらインブルに入る可能性も高いです。 アウターだったら227ですが、インナーだったら202です。 アウターなら間違いなくT19かT20ですが、インナーで202残からT20で142、T19で145です。インナーだったらT20狙い、142残としてT17 T17 D20に行くつもりだったのかもしれません。

もし、252残からの2本目でS19やS20に外れて233,232残となると、3本目でT20に入れても233-60=173, 232-60=172残となり、3本目でブル狙を狙うどころか、3本目を投げる前に上がり目を出すことが無理になることが確定してしまいます。

逆に2本目で252から先にトリプルよりも確率の高いアウターを含むブルを狙うとどうでしょう。ブルのアウターに入っても227残となり、さらに3本目でT19に入れば、上がり目の170となります。アウターの外に外してしまうとやはり3本目を投げる前に上がり目を出すことが無理になることが確定しますが、例えばS3やS13に入って249や239残になったら3本目では19を狙っておこうなどと次のスローに向けて修正ができます。そのためスミスは2本目はT19,T20ではなくブルを狙ったと思われます。

3本目T19

スミスは、252からブルを狙ってインブルに入ったので202残となり、T19でもT20でもトリプルに入れば上がり目にすることが可能になりました。スミスの場合単純に202残となった時にはT20を打つことが多いですが、この場合T19に戻りました。ここでスミスはT19にまた戻っています。T20でなくT19をなぜ選択したのかはいくつか理由があると思います。

  1. スミスはS25だったらT19で170にすると考えていたはずです。D25でT19かT20どちらでもよい場合には、D25でもT19にすると決めて入れば考えることを一つ減らすことができます。考えることを減らせればそれだけ余裕ができ、正確なスローに繋がります。あらかじめT19を選択しておいた理由として考えられるのは、実際にはDBに入りましたが2本目がもしS25だったとすると227残となっており、その後T19だと170残、T20なら167残になるからです。170残はT20-T20-DBと同じ狙い慣れたトリプルを狙えますが、167残はT20-T19-DBとトリプルの狙いが上下に大きくずれるので成功率が落ちるからだと思います。それにやはり170は1スローで上がれる最大の数字で格別。歓声、衝撃、話題性、記憶・記録への残り方が違う。
  2. 一本目にT19に入っていて、狙いが合っていることは入るという自信に繋がっているはずです。
  3. また一本目がT19の上に入り、アンダースタッキングさせやすい位置にあることも関係しているかもしれません。3本目が見事にスタッキングしてました。

スミスは3本目もT19に入れ145残としました。このあと、ガーウェン は52残を2本で決めて、スミスはこのレグを落としますが、こうやって考えると、スミスは180を2本食らっても、52-309になっても、諦めずに食いついて行こうとしていることがわかります。トリプル-インブル-トリプルに入れることができる腕があることも凄いですが、尊敬に値するのは、180二発食らって大差をつけられても集中力を切らさずに、むしろ燃え上がって実力を発揮していることです。その燃え上がった集中力はこの次の10レグ目でも引き続き、スミス先攻の1スロー目で180を出し、9ダーツでやり返そうとしているように思われます。2スロー目の一本目でT20を外したとき、珍しくちょっとくやしそうにニヤッとしてるのです。ダーツに於いての闘志とはこういうものであって欲しいです。

そして際立つのがスミスの対応の速さ、頭の回転の速さです。このようなアレンジの仕方や当たった場所に対応する変化のさせかたは、いくら実戦だけ積んでも身につかないことですし、考えて覚えているだけでも実戦ではなかなか対応できないことだと思います。よく考えて、練習を積み重ねていると思います。

要するにマイケル・スミスは素晴らしい選手だということが、これだけでもわかるということです。

カテゴリー: PDC アレンジ データ解析

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