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一本で分かる知性と信念 ウィットロックの110

はじめに、ダーツのアレンジのことを書いていますが、これもあれも教えてもらっている樋口プロ@dancingduck180 もおっしゃていましたとおり、アレンジは「こうでなくてはいけない」とか「知ってなければ楽しめない」というものではないことではないと思っています。もちろん、「知らなければやる資格がない」とか「知らない人とはプレイしたくない」なんて全く全然、これっぽっちも思いません。楽しみながら必要な範囲で深めていきたい人は深めていけばよいと思います。一方で、腕が追いつかなくても知れば知るほど面白くて深いなと思うので共有したいと思っています。

さて、2018年10月28日、ヨーロピアンダーツチャンピオンシップの準決勝、サイモン・ウィットロックは、ジョー・カレンと対戦しました。11先という長いゲームで10-10とフルセットになってカレン先攻。4スローでウィットロック206残、カレン183残となりました。同程度の数字ですが、先攻のカレンが有利です。

5スロー目、ここでしっかりカレンが100を出して、83。トリプル一本でダブルで決められる領域に入りました。ウィットロックも20、19、T19としての96点で110残と綺麗に整えましたが、ダブルの前に、シングルとトリプルが必要な点数で相変わらず不利です。(三本持ちなのでT20-DB(インブル)トライは無いとして。)

Whitlock v Cullen SF 2018 European Championship GC DARTS

6スロー目、カレン、S17で66残、次の16狙いがトリプルに入り18残となった後、D9を痛恨のミス、18残。後のないウィットロック、メガネを直し、指に息を吹きかけ、ゆっくりと入り、狙いはT19しか見ていない。そして110残をT19から。カメラもT19に合ってる。そして、S17-D18でフィニッシュ、勝利が手からこぼれ落ちとても悔しそうなカレン。歓喜のウィットロックは決勝進出となりました。

Whitlock v Cullen SF 2018 European Championship GC DARTS

186残2本持ちでS19 T19

186残で1本持ちの場合、T20を狙ってS20に入ると166になり、170以下なのに3本で上がれない数字になってしまうため、ほとんどのプレイヤーはT19を狙ってS19に入った場合でも167(T20-T19-DB)として3本で上がれるようにします。しかし、2本持ちの場合、3本目があるのでPDCの選手たちは得意なT20をねらうケースの方が多いです。比率としてT19:T20=1:4ぐらいです。しかし、ウィットロックはT19を狙い、S19-T19で110としました。

186残からS19-T19でもT19-S19でも110残。S19-S19で148残。T19-T19で72残。110残は後で説明しますが、最後が0でアレンジしやすい感じします。普通はT20-S18-D16、T20-S10-D20、またはS20に入ったら数字の揃ったT18-D18ですね。148残は100を出せば48残でこれも数字が揃ったS16-D16。ウィットロックは48残でS16を打つので狙いやすい数字です。T18-T18-D20もあるかもしれません。72残は、20からでも16からでもアレンジしやすいよい数字です。

186残からS20-T20ではどうかというとT20で126残、ここからT20で66残、S20で106残。 S20では166、ここからT20で106残、S20で146残。19狙いと比べると、あまり戦略的に残したいという数字ではないように見えます。66残は2本持ちならS16-DBで2本で上がれる可能性があるので72より良いですが3本持ちなら、あまりメリットありません。66でもシングル2本とダブルがいることは72と代わりありません。66残3本持ちはT14やT10を狙う扱いにくい数字です(ウィットロックは14狙い。)。

従いまして、186残、2本持ちでも19狙いという選択は、優れていると思います。

110残3本持ちでT19

さて、切りのよい110になって、T20として50残、S18-D16またはS10-D20、S20に入ったら2本持ちなのでT18-D18と同じナンバーといけるというところです。110残からPDCのほとんどのプレイヤーはT20に打ちます。私の今年の春頃からのPDCで行われた対戦の記録によると、110残3本持ちは141ケースありましたが、T20狙いが121ケース、T19狙い16ケースと圧倒的にT20が多く、T20が定石と言えるでしょう。しかし、ウィットロックはT19に打ちました。これについては、準決勝の勝負を決めるスローだつたので、目立ち、気が付いた人が多く、ツイッターで19なのかととても話題になりました(注:私のタイムラインでは)。そこでまたもや、いつもお世話になります樋口プロ@dancingduck180 に教えてもらい、T19が考え尽くされた一手であることがわかりました。教えてもらったことをベースにT19なのか考えてみたいと思います。

高スコアからどのアレンジが良いかを考える上の手順として、外れたらどうなるかとD20,D16,D18、その他どのダブルに落とし込みたいかを考えます。トリプルを狙う場合とシングルを狙う場合、以下のような場合を考え、数字毎に残数がどうなるか考えます。そしてその残数が、落とし込みたいダブルになるかどうかを考えていきます。スコアによりトリプルトリプルを考える場合、場合必要な高スコアでは複雑になります。

  • トリプルを狙う場合 (6パターン)
    • その番号のトリプルに入ったら(狙い通り)
    • その番号のシングルに外れたら
    • 右隣の番号のトリプルに入ったら
    • 左隣の番号のトリプルに入ったら
    • 右隣の番号のシングルに入ったら
    • 左隣の番号のシングルに入ったら
  • シングルを狙う場合 (5パターン)
    • その番号のシングルに入ったら(狙い通り)
    • その番号のダブルに入ったら
    • その番号のトリプルに入ったら
    • 右隣のシングルに入ったら
    • 左隣のシングルに入ったら

例えば、110残からT20-S10-D20を考えると、まずT20のトリプルを狙う場合の6パターンを考えて、残数から次の手を考えて、またトリプルが必要であればトリプルを狙う場合の6パターン、シングルでよければシングルを狙うパターンの5パターンを考えます。枝分かれにつぐ枝分かれで複雑になりますが、樋口プロクラスだとスラスラでてきます。そしてT19-S17-D18はどうかと同様に調べて、最終的にどちらが有利か比較できます。判断基準は、落とし込みたいダブルに行き着くか、行着かなくてもどうにか3本目までにはダブルトライができるかどうか、行着かなければ少ない本数で上がれるパターンになるか、バーストしやすくならないかなどです。こうして調べるとT20とT19を狙うとどちらが好ましいかわかります。T20-S10-D20、T20-S18-D16、T19-S17-D18を想定した場合で比較すると、以下に示すように外してもT19の方がタブルを狙えるチャンスが多いことがわかります。

  1. T20-S10-D20の場合 (8パターン)
    • T20-S10-D20(狙い通り)
    • T20-T10-D10(二本目がトリプルに入った)
    • T20-D10-D15(二本目がダブルに入った)
    • T20-T6-D16(二本目が隣のトリプルに入った)
    • S20-T18-D18
    • S20-T20-D15
    • T5-T19-D19
    • T1-T19-DB
  2. T20-S18-D16の場合 (7パターン)
    • T20-S18-D16(狙い通り)
    • T20-D18-D7(二本目がダブルに入った)
    • T20-T4-D19(二本目が隣のトリプルに入った)
    • S20-T18-D18
    • S20-T20-D15
    • T5-T19-D19
    • T1-T19-DB
  3. T19の場合(9パターン)
    • T19-S17-D18(狙い通り)
    • T19-T17-D1(二本目がトリプルに入った)
    • T19-S3-DB
    • S19-T17-D20
    • S19-T19-D17
    • T7-T19-D16
    • T7-T17-D19
    • T3-T17-DB
    • S3-T19-DB

T20の場合、1投目でS1、S5に入った時点でそのスローで上がれないことが確定します。1投目でT20で50残として2本目でD16残にすべくS18を狙って、T18に入ってしまうとバーストします。T19の場合、隣のトリプルだけでなくS3でもまだチャンスが残ります。考えて行くと、T19にはT20にはないメリットが多いことがわかります。110から2本でD16に到達する唯一のルートであるため、2番目のT20-S18-D16は最もよく使われるルートですが、意外とメリットが少ないことがわかります。T20-S18のメリットとしてS20に外れても次がT18で20から18の流れは変わらないことがありますが、T19-S17も同様のことが言えます。S19に外れても次はT17です。S20に外れたあとT10を狙っても60が残るだけです。得意なダブルに合わせて20-18(D16)、19-17(D18)のように決めておき、トリプル-シングルの場合はここ、シングル-トリプルの場合の場合はここと決めておけば、投げる時に考えることを減らすことができ、リズムよく投げることができますし、集中することができます。

ウィットロックの信念

ウィットロックが110でT19を狙うのは、この時たまたまではありません。常に110残では19を打っています。今年少なくとも6回の110残3本持ちがあり全て19を狙っています。(ツイッター@HiddeWanKenobiJで17から入ったこともあると書きましたが間違いでした。すべて19です。) 今年だけでなく2017年12月20日のワールドチャンピオンシップのファーストラウンド、マーチン・シンドラー戦でも、2セット目の4レグ目で、110残をT19から入っています。(この試合は、3セット目の1レグで、D1の打ち合いになるという、マッドハウスのダブルトラブルが起きましたので、そちらのほうで覚えている人もいかもしれません。)

186のT19、110のT19ともに、主流の狙いではありません。しかし、シングルを外す可能性はほとんどないにも関わらず、少しでもチャンスが増えるのであれば、突き詰めて、たとえわずかであってもそちらを選択しています。ウィットロックは48残でS8ではなくS16を狙ってD16にすることから分かるように、トッパーではありません。しかし、上がる可能性を追求してD18、D20となるルートを選択しました。ウィットロックはチェックアウト率が高いことで知られていますが、バックグラウンドには自身で考え抜いたアレンジがあると思います。

ウィットロックの110は17:30から。 ダブルトラブルは22:20あたりから。

ウィットロックは、考え抜いて、誰にも左右されずに自分の打ち方を決めてます。カレンとの戦いで、後攻で不利という状況にも関わらず、土壇場で110を決め、逆転したのも考え抜いたアレンジとそれに伴う自信があったからできたことだと思われるのです。

(追記)先日、バーで対戦中110残となり、これだ思ってT19を狙ったのですが、ものすごい違和感でした。私は削りがT19メインなんですが、それでも違和感感じました。多分、みなさんもT19の利点がわかっても違和感感じると思います。そんな時は、T20でよいと思います。「いやーそこは19だろ」なんて言いません。10秒以内で説明できませんし。

(追記2) 樋口プロが、110のT19狙いを見たのは、国内の難しい漢字の有名なプレイヤーと戦ったときだそうです。

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61〜98のアレンジのしょーもない覚え方まとめ

カテゴリー: PDC アレンジ

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